建築家インタビュー
西沢立衛
西沢立衛/にしざわ りゅうえ
西沢立衛建築設計事務所
1966年 東京都出身
空気感と環境
——西沢さんの建築についておうかがいしていきたいと思います。ガラスは透過と反射という両面があるので、ガラス上で2つの映像が重なって見えるわけですが、トレド美術館のガラスパビリオンでは、ガラスが何層も重なって見えてくることによって、もうちょっと違うものが現象しているような印象もあります。不思議な空気感みたいなものというか……。
西沢
そうですね。トレドをやっていた当時も、今も、空気感というものに興味があると思いますね。建築でも何でもそうですが、雰囲気ってあるじゃないですか。そういうものですね。
——その空気感というのは、リアルとアンリアルの中間みたいな感じとは違うものなのでしょうか。
西沢
それはちょっと違うんでしょうね。70年代のいろんなヨーロッパの作家で非現実的な状態を前提にした建築プロジェクトはあったと思いますが、ぼくらの場合はやはり実現することを前提にしているので、アンリアルというよりはかなりリアルですよね。
——環境とか風景という言葉を西沢さんはわりとよく使われると思いますが、今の空気感というのは風景ともまた違うのでしょうか。
西沢
それはすごく関係していると思いますね。風景とか環境というものは、見た目だけでないと思うんです。雰囲気というか、全体の調子というものを、視覚だけでなく五感全体を使って、人は体験していると思います。
——環境というと、建築と周囲との関係性みたいなものを考える、美しい街並みをつくるみたいなことに通常はなると思いますが、またそれとはちょっと違う感じも受けるんですね。そこでしか経験できないようなもの、さきほどの空気感みたいなものをつくりだすというか。
西沢
並木とか、家並みとか、坂道の具合とか、もしくは人の活動のエネルギーとか騒音とか、匂いとか、もしくは歴史、どのくらいそこに人が住んできたかとか、本当にいろいろなことで街の雰囲気がずいぶん変わりますよね。
動的関係性をつくる
——西沢さんの建築で、移動することによって、自分と建築の各要素との関係性がどんどん変わっていくようなことがけっこうあると思うんですね。この動的な関係性みたいなものへの意識、関心というのはどのあたりからもたれたのでしょうか。たとえばウイークエンドハウスでもそういう感じを受けるし、トレドやROLEXラーニングセンターでもそうだと思うのですが。
西沢
そうですね、それはあると思います。
——動的関係性というのは1室空間的なつくり方と大いに関係しているように感じるのですが。
西沢
でも、スタッドシアター・アルメラは部屋から部屋へとどんどん移り変わっていくという意味で、まさにおっしゃるような、動くことで関係が変わるというものをつくろうとした例といえるし、十和田市現代美術館もワンルームではないけど、人の動き、経験ということをテーマにしています。
——外部空間も含めて。
西沢
外部空間も含めてですね。内外を通じて、人の動き、経験ということに興味がありますね。関係性と言ってもいいかもしれませんね。要望された部屋をひとつひとつ並べていって終わりということではなくて、お互いの関係を考えて、距離感を考えるという、そしてその関係ということを人が感じることができる、ということです。人が歩き回れるというのも、いろいろな空間の関係を経験できるという、そういう自由さみたいなものに興味があるからだと思います。
——金沢21世紀美術館もそうですね。
西沢
そうです。展示室の順序が無く、部屋をめぐる順序は観客の側が組み立てていけるというものです。いろいろな部屋の巡り方が可能になるプランなのです。回遊性ということを美術館の重要なテーマのひとつと考えた建物だと思います。十和田もそうです。
巨大なワンルーム空間と斜めの床
——ROLEXラーニングセンターでは床が斜めになっていますが、これはどういったところから出てきたアイデアなのでしょうか。
西沢
大学の既存キャンパスには、学生と職員みんなが集まる場所がないので、そういう大学のセンター的なものをつくってほしいという要望がありました。そこで僕らは、学生と教職員みんなが同時にいれるような、たいへん大きなワンルームを提案したんです。165×120mくらいの大きなものです。しかしそういう大空間だと、建物の奥深くにいると外から遠くなって、外が見えなくなってしまうので、いくつか中庭を入れて、また建築のあちこちを隆起させることで、どの場所にいても外が見える、外につながれる、ということを考えました。また、そういう3次元的な形になると、エントランスを建物の中心部分に持つことができるのもうまいと思いました。ふつうエントランスというものは、どういう場合でも建物の端についているものですが、今回のような大きなワンルーム空間でエントランスを一番端につけると、中に入ってから延々と165m歩かないといけない。でも、建物をこのように曲げると、持ちあがった部分の下から入っていくことができて、外から建物の真ん中部分に直接アプローチできるのです。まずみんなが建物の真ん中に来て、そこから建物に入るという動線計画です。
——たとえば、さきほどレムの話が出ましたけれど、レムを通して、その参照元のル・コルビュジエの、たとえばソヴィエトパレス案の斜めの床などとは関係はないんでしょうか。
西沢
それはないです。
——今のお話みたいなところから直接出てきたわけですね。
西沢
そうですね。
トレド美術館ガラスパビリオン, 2006
外観
設計=SANAA
©SANAA
トレド美術館ガラスパビリオン, 2006
内観
設計=SANAA
©SANAA
ROLEXラーニングセンター, 2010
外観
設計=SANAA
©SANAA
ROLEXラーニングセンター, 2010
中庭部分
設計=SANAA
©SANAA
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