PIPライブ
濱野
ちょっとかけ足でいろいろとしゃべってきましたが、「神山町でアイドルつくろうぜ」という話は後半にとっておいて、まずはライブを観ていただきましょう!



松島
ここまで近接した現場は初めてなんですけど、レス(オタク用語で目線が合うこと)ってあるじゃないですか。僕はあれ耐えられないんですけど(笑)、あれは目を逸らさないように耐えるのが良いんでしょうか?濱野さんは最初から逸らさないように我慢できました?
濱野
まだ好きにもなってないのに、目を合わされると恥ずかしいってのはあるじゃないですか。電車で目が合ったら恥ずかしいと同じレベルです。視覚と触覚というのは社会学ではよく区別されます。メルロ=ポンティに言わせれば、自分で自分の手を触るとどっちがどっちを触っているかは分からない。触っているし触られているから、どちらが主観か分からない。視覚は完全に主観と客観、見る側とオブジェクトがはっきり分かれるんですが、レスは一瞬だけ見てるのか見られてるのか分からなくなるんですよ。それが僕はすごく面白いなと思っています。アイドルが好きというか、ただレスが好きなだけかもしれません。アイドルの現場における言葉を介さないコミュニケーションは魅力だなと思います。
松島
まなざしだけでふるまいが問われるというのが、なかなかショックでした。掛け声はどこまで濱野さんが設計しているんですか?
濱野
とくに設計はしていません。アイドル現場で脈々と受け継がれているナゾの呪文がいっぱいありまして、「ミックス」と言ってAKBではみんなで一致団結してやるものです。目立ちたがってズラす輩もいて、これも生き物みたいにひたすら伝承されていくものです。これをやるとドルヲタの仲間入りをした感があるんですよ。現地の風習に入っていくような。
セーフティネットとしてのアイドル
松島
坂東さん、いかがでしたか?ニヤニヤじゃないですか(笑)。
坂東
良かったです、ほんとに良かったです。なんか娘をみているような気分になってきて。ぼくは空井さん推しなんですけど、彼女が大学を出て就職せずにPIPに入ったと聞きました。それはどういう経緯でそうなったんでしょうか?
濱野
空井に直接聞きましょう。ちょっと空井を読んできてもらえますか?

〈空井さん壇上へ〉

空井、なんで就職しないでPIP入ったの?
空井
人を笑顔にできる仕事がしたいと思いブライダル業界を受けていました。内定はいただいたものの就職活動をしているうちにだんだん不安になってきてしまって、その時にたまたま見かけたのがPIPのオーディションでした。就職活動と並行してオーディションを受けたら合格して、就職活動で悩んでいたことを濱野さんに相談したら、「絶対後悔はさせないから」と言っていただいて、、、
濱野
そんなこと言ったっけ?(思ってるけど。)
空井
えー!言ってましたよ!
それから、PIPは「アイドルをつくるアイドル」というコンセプトなので、アイドルのセカンドキャリアをすごく考えているところが新しいなと思いました。就職活動しているときに大企業ばかりじゃなく中小企業も見ていたので、新しいものをつくることに挑戦したい気持ちもありPIPは合っているのかなと思って、このPIPに入りました!


会場:拍手


坂東
ブライダルに決まったときに「大丈夫かな」と思ったとおっしゃっていましたが、何が大丈夫かなと思ったんですか?
空井
面接の過程で、妹へのプレゼントとして可愛い時計を欲しがっているお客さん役の面接官にたいして、いかに黒いシンプルな時計を話術で売るかという営業の実施試験を受けました。その時に、「もしかしてブライダル業界でもお客さんの希望を叶えるだけではダメで、無理矢理話術で商品を売らないといけないのかな。」とその時不安を覚えてしまって、、、
坂東
素直な気持ちで笑顔にさせたいということですね。逆にアイドルだったらそれができると気付かれたわけですか?
空井
もともとアイドルに詳しかったわけでは決してなくて、どっちかというと声優が好きでyoutubeでいつも動画をみていました。やっぱりそういうときは純粋に楽しかったので、アイドルは純粋に楽しませることができるのかなと、思いました!
坂東
教育機関としてのアイドルという話を濱野さんがされていましたが、さらに進めてセーフティネットとしてのアイドルという見方もできると思いました。AKBのさしこ(指原莉乃)さんが高校生活がうまくいかなくてアイドルを目指したとか、ゆるめるモ!のあのちゃんがひきこもりだったけどアイドルだったらなってみようと思ったとか、社会に出るときに自分がその社会に合わないなと思う人や単純にひきこもりにとってアイドルが受け皿になっているところが興味深いと思います。
濱野
さきほどの、神山町にいく若者が都心にいたら得られない社会貢献を求めているという話においても、アーレントの言葉で言う「世界貢献」、ちいさいコミュニティに貢献して承認されることが大事じゃないですか。それがビジネスになるとどうしても金ロジックが入るので、本当はその人のためじゃないけど商品を売らないといけない、ということになりかねないのではないか。そのときに、神山町で働く人の気持ちとリアル系アイドルの気持ちは近いかもしれません。俗っぽい言い方をすれば、そっちの方がより人間的で、それでいいのだ、というのが僕の考えです。
自己実現からまちづくりへ
松島
自己実現からまちづくりへの効果波及というのは、構図としては古くからあったんじゃないかと思います。出雲の阿国を調べていたんですけど、出雲大社の巫女だった阿国はだいたい11歳くらいでデビューしていて、大社遷宮の資金集めのために神楽を踊って全国を行脚していたんですね。
濱野
なるほど、アイドルですね。
松島
それが歌舞伎踊りに変質していって、今の歌舞伎につながっていくんですけど、その活動期間がたかだか7年くらいなんですよ。わずか7年足らずで、地域の他の若者たちが歌舞伎踊りをやり始めて、阿国がアイドル化していきハコができていく。日本全国の農村に浄瑠璃か神楽の舞台は必ずあるものなんですけど、それは絶対的に共同体を守る機能を持つので壊されないんです。僕の地元にも浄瑠璃の舞台がのこってますし、神山の寄井座もそうですよね。たった7年の熱気が、日本全国にその後数百年続く建築と共同体をつくったわけです。
濱野
AKB以降でいうとまだ7-8年、10年くらい経っているかどうかな、という感じです。たしかに「ヲタ芸」って面白いものでなんとなく真似したくなるんですよ。ある身体的な合理性みたいなものがやはりあって、それが何かは分かりませんが。
松島
「待ってました!」とか「成田屋!」とか、掛け声のインタラクションは当時から強かったようですね。
濱野
どの現場でも名物みたいな「ヲタ芸」が生まれてくるんですよ。都市空間のライブでそういうことが起きることが面白い。
「建てないことも選択できる建築家」
坂東
『美術手帖』で「建てない建築家」特集が出た時に、その特集に載っている人ではない、周囲の人から批判が続出しました。
濱野
内部アンチの構図ですよね。
坂東
さっき話した、ゆるめるモ!というアイドルグループのテーマは「逃げてもいいんだよ」なんですね。もしかしたら「建てない建築家」というのは松島さんがさっき言われたように、マッチョイズムの建築家から逃げた先の可能性なのかもしれない。松島さんは、このあたりどうお考えですか?
松島
四象限をつくったときに、果たしてハイセオリー系がマッチョなのか、アクティヴィズム系がマッチョなのか全然わからなかったんですよ。これは時代精神によって簡単にひっくり返る。10年前はハイセオリーがマッチョだったんですけど、今はアクティヴィズムの方がマッチョになっている。その転換はパワーバランスによって決まってくるので、リテラルな質で決まることではないと思うんですね。だから「建てない」という逃げの希望がまたマッチョに転換するということは当然あり得る話で、僕はその脅威を感じています。いま現在、僕自身はヘタレ的立場のつもりです。
坂東
さっきの空井さんの話と同じで、僕が地域で活動することに最初は大きな志はなかったんですよ。自分の地元が過疎で傾いてるのでなんとかしたい、素直に笑顔にしたいみたいな気持ちで始めました。逆に、今の時代に建築家のパドックをたどり抜けて出世していくことが、何か素直じゃないというか、負い目みたいなものを感じながらやらないといけないところがあるんじゃないかと思います。黒い時計を売らなければいけないというような。
松島
個人の立身出世の話とは少しずれて、スタンスの話になりますが、隈事務所時代に梼原町で《梼原・木橋ミュージアム》というハコモノを担当したんですけど、それはそれで非常に機能するんですよ。スター・アーキテクトのつくるハコが力を発揮する地方は間違いなくあるんです。もっともエフェクティヴな行動をとるのが建築家であるならば、ハコモノはハコモノで機能するところでは、スターとして振る舞うことにわざわざ抗わなくてもいいと思っています。プログラム次第で、アクティヴィズム系にいくのかハイセオリー系にいくのか選択できるリベラルさこそが、日本の建築家の強みだと僕は思います。だから「建てないことも選択できる建築家」というタイトルであればいいんですが、その「選択」のニュアンスが入っていないので「建てない建築家」という文言は問題だと思います。スターという変数すらも使いこなせる建築家が、最も社会的な実効力を持つのではないでしょうか。
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