イベントレポート
■講座趣旨:

ミサワホームAプロジェクトでは、時代が急速に変化し、複雑化していくなかで、住宅を中心とした事業とは別に、集合住宅や自宅併用としての中高層の建物に力を入れ、また時代に対応した高齢者や保育事業などの非住宅事業にも力を入れております
今まで住宅で培ったノウハウを外部の建築家とネットワークを結ぶことにより、よりレベルの高い建物の提案をしてまいります。
そして、いままで、東京を中心として活動しておりましたAプロジェクトを、関西地区においても、皆様のお役に立てるべく、便利でより迅速なサービスが提供できるよう、地元関西で活躍されている建築家を結集し、「Aプロジェクト関西」として、立ち上げることにいたしました。
今日はその記念シンポジウムとして、「日常と連続したケアのデザイン」を開催いたします。
ゲストはコミュニティデザイナーの山崎亮さんです。山崎さんの活動は広範囲で、離島から都市まで全国各地で展開されています。主な仕事は、地域が持つ課題を地域の住人自身で解決するために、人と人とがつながって動き出すコミュニティをデザインすることです。現在約80のプロジェクトを展開されています。

もう一人のゲストは、建築家の前田茂樹さんです。
前田さんは、大阪大学、東京藝術大学大学院を出られて、
その後フランスに渡って、ドミニク・ペローの事務所に入所されました。そのペローの設計した大阪駅前の富国生命ビルは前田さんが担当されたものです。
2000年から10年間フランスで活動されました。
帰国後に独立され、住宅をはじめ高齢者や介護施設などをつくられています。

お二人をまとめるナビゲーターとして、近ごろめきめき建築の手腕を発揮している松岡聡さんをお招きしました。
松岡さんは、愛知県のお生まれですが、京都大学、東京大学大学院を出られ、さらにアメリカのコロンビア大学に進みました。そして、帰国するとSANNAに入られ、その後2011年から近畿大学で准教授として活躍されています。

本日のシンポジウムがどのような展開になるか。来場された皆様方にとって、これまで聞いたことのない、刺激的で、新しい建築の可能性が感じられるシンポジウムになればと思っております。

ミサワホームAプロジェクト室長
大島滋
2016.3月吉日




■日時:2016年3月13日(日) 13:30〜16:40
■ゲスト: 山崎亮×前田茂樹×松岡聡
■会場: ホテルグランヴィア大阪20階 名庭の間 大阪市北区梅田3-1-1 サウスゲートビルディング
■共催:M&D保険医ネットワーク|ミサワホーム近畿株式会社
■企画・監修:大島滋(Aプロジェクト室)
リーフレット
 
山崎亮プレゼンテーション
山崎
 よろしくお願いします。これまでに僕の講演を聞いていただいたことのある方はご存知だと思いますが、毎回準備をせずに、会場の方がどんな話に満足していただけるのか、様子を見ながら話をしています。このパソコンには、200枚×10セットで2,000枚のスライドが入っていますので、皆さん興味のある話が出てきたら、「興味があるぞ」という顔をしてください(笑)。逆に、興味がない時はそういう顔をしてください。すぐに話を変えますので(笑)。トップバッターは会場の皆さんの興味がわからないので、実は苦手です。「日常と連続したケアのデザイン」は難しいテーマですね。何から話しましょうか……。
 これは、北海道の沼田町でのプロジェクト「沼田町農村型コンパクトエコタウン整備基本構想」です。人口3,600人ほどで、ほとんどが山と農地です。その中心部に中学校の跡地があり、町長から医療や福祉などの施設をつくりたいという話がありました。町長と建築家で話し合って実現させるのではなく、そこにわれわれコミュニティデザイナーが入り、地域の人たちの意見を聞きながら考えていくという仕事でした。医療福祉だけではなく、農林業の六次産業化やエネルギーのことも考慮して、コンパクトタウンをさらにコンパクトにしていく仕掛けをこの敷地の中につくろうと考えました。建築家にどんなデザインをしてもらうか決めるところをお手伝いする、という役割なので、最初に住民の方々にヒアリングをします。今困っていることなどを挙げてもらい、その解決策を話し合うワークショップに参加していただくのです。ただ、ここでは、最初にワークショップをやらないという方法にしました。やはり、その地域の人たちが集まって話し合うだけでは、なかなか良いアイデアは出てきません。今、厚生労働省から「地域包括ケア」という話題が出てきていますが、いきなりそうしたワークショップやブレインストーミングなどをやっても、結局は「昨日の夜『クローズアップ現代』でこんなことをやっていた」というような、卑近な話題ばかりになってしまいます。街の50年後の将来を考えるには、まずインプット、学びが必要です。生活者のプロである住民たちから良い意見が出てこないというわけではなく、医療福祉や将来のことをインプットしてもらい、それらと自分の街や生活のことを頭の中で混ぜて考えてもらうことが重要なのです。そこで初めて有用な意見が出てきます。というわけで、1年で全9回というワークショップの計画でしたが、前後半に分け、前半4回はひたすら話を聞いてもらい、これからの地域包括ケア、日常と連続したケアについて学んでいただき、後半に自分たちの意見を出してもらうという形にしました。
 前半4回は各地からそうしたことを実践している知り合いや友人を呼んできました。1人目は旭川医科大学で僻地医療をやっている住友和弘さんです。元々は稚内の方でやっていて、お医者さんと看護師さんと事務の3人でかなりの人数を診ていました。沼田町は旭川にも近いですから、住友さんにも巻き込まれてもらうと良いなと思っていました。2人目は、佐久総合病院の北澤彰浩先生です。佐久総合病院は僕がすごく尊敬している若月俊一さんという先生がいた病院です。「演説より演劇をしろ」という宮沢賢治の教えから、お医者さんが午前中は病院で診療、午後は訪問診療をし、夕方からは化粧をしたり着替えたりして、公衆衛生についての演劇をやられています。若月さんの「農民とともに」という医療の思想を引き継ぐだろうと言われているのがこの北澤さんです。3人目は「Share金沢」の理事長の雄谷良成さんです。「Share金沢」は、学生向け住宅やお店などが一緒になった高齢者、障害者の福祉施設です。雄谷さんの奥さんは建築家です。クリストファー・アレグザンダーの「パタン・ランゲージ」をよく勉強されていて、ここで活かしています。4人目は秋山正子さんです。秋山さんは訪問看護に携わり「暮らしの保健室」をやられていた方で、今「マギーズ東京」というガン患者の施設を一緒につくっています。こうした4人にこれからの医療、福祉、看護、薬治の話をしてもらいました。各先生方の著書を読んだ参加者だけが質問できるという本気の勉強会でした。半年の勉強会を経て、住民の意識だけではなく、お医者さんの意識も変わったような気がします。地域包括ケアは、住民の方が結びつく地域ケアだけでも、お医者さんや看護師さん、介護士さんなどの専門職が連携する統合ケアだけでもダメで、両者がつながることが重要なのです。
 ワークショップを繰り返す中で、予算のシミュレーションもしました。中学校の跡地に、医療福祉の他、子育て住宅を入れたいという意見なども出てきますが、行政の予算に応じて、一期工事の予算が5.5億円で、次年度の二期工事の予算が10.5億円という設定がありました。そこで、みんながほしいという施設を、スタイロフォームを切って色付けしたブロック模型で表し、そこにイメージ写真と平米数と金額を書いておきます。コミュニティデザイナーは毎日のように人前でしゃべっていますが、実は裏方仕事も沢山あります。事務所のスタッフは、ワークショップの前の晩までにスタイロフォームを沢山切って色を付けて乾かしたりしています。それらのブロックと敷地模型、計算機をワークショップのテーブルに置いておくと、真面目な人が計算もしてくれます。ほしいものすべてをつくると予算が足りなくなるので、住民の方々に一期工事と二期工事でできることの優先順位を決めてもらいます。コミュニティデザイナーの仕事はみんなの話し合いを促進し、アイデアを出してもらい、それを建築家に伝えることです。これをやらなければ、地域の方々がまったく知らないうちに建物ができ上がってしまうことになり、運営にも関わってくれません。ボランティアも集まってくれませんし、徘徊防止のチームがつくれないということになります。せっかく建築ができる、事業が動くのであれば、市民の方々と一緒に進めましょうというものです。
 ワークショップを経ると、意見が3案くらいにまとまっていきます。それが見えてきたら、各メリットとデメリットを聞きます。あとはたとえば「木目調」とあっても、具体的にどんな木目調の空間なのかがわかりませんので、写真などを見ながらイメージを共有していきます。ワークショップで出てきた意見を付箋に書き、どの空間でできるかを整理していきます。このあたりで具体的に建築家を選んでいきます。プロポーザルをやることが多いのですが、ここでも気になる建築家5人にお願いして、アイデアを出してもらいました。その中で、一番良い案をつくってくださった早稲田大学教授でNASCAという設計事務所をやられている古谷誠章さんに設計をお願いすることになりました。今、まさに打合せを繰り返しながら、地域包括ケアの拠点をつくっています。僕らの仕事はここまでが半分くらいで、あとはチームを実際に動かしていくということが大切になります。ワークショップで集まってくれた7チームの参加者は、建築への意見を言うだけではなく、実際に活動を開始してくれないと意味がありません。カフェ、共同売店、学びの場、空き家・空き店舗活用、広場づくり、情報発信などのチームなどができ上がりました。活動の準備が進んでいる一方で、設計もほぼ完了し、工事が始まっています。
 ふたつくらい事例を紹介したかったので、かなり早口でお話してきましたが、やはり20分では無理でしたね。兵庫県西明石の「譜久山病院」のプロジェクトなどもあったのですが……。これは「お大事に」ではなく「また来てね」と言う病院なのです(笑)。病院本体は「お大事に」ですが、厚生労働省の補助をもらわない部分は自由につくっていいわけですから、その回りにみんなが普段から来たくなるような場所をつくっていこうとしています。詳しい話は別の機会にできればと思います。
 僕がこのようなことに興味を持ったきっかけは、ジョン・ラスキンという19世紀の美術評論家でした。ラスキンは著書『この最後の者にも』で、「あなたの人生こそが財産である。人生というのは、そのなかに愛の力、喜びの力、賞賛の力のすべてを含んでいる。最も裕福な国とは、高貴にして幸福な人々を最大限に養う国である。最も裕福な人間とは、自分自身の人生の機能を最大限にまで高め、その人格と所有物の両方によって、他者の人生に最も広範で有用な影響力を及ぼす人のことなのである」と書いています。学生時代、この言葉に大変感動しました。暉峻淑子さんの『豊かさとは何か』(岩波書店、1989)などを読み、豊かさはお金や物を沢山手に入れることではないことはわかっていましたが、豊かな人生とは何なのか考えていた時にラスキンの本に出会いました。豊かな人生とは、あなたの価値を最大限に高め、今隣の人に良い影響を与え続ける、社会、地域に良い影響を与え続けることであり、お金持ちならそのお金を使って社会に良いことをやり続ける、知識を得た人はそれを使って社会に良いことをやり続ける、豊かな国とはそうした豊かな人生を歩んだ人が沢山いる国であるというとてもシンプルなことを言っています。僕の人生を豊かにしたければ、僕が手に入れたものによって地域の人をどんどん幸せにしていくことをやり続ければ良いと思ったのです。元々は建築設計事務所で働いていて、建築を介して世の中のために良いことができると思っていましたが、2008年に日本の人口減少が始まった時に、建築設計で本当に人びとに役に立てるか不安になり始めました。そして、建築設計のノウハウを活かして、人と人がつながることが地域貢献になるのではないかと考え、studio-Lという事務所をつくりました。studio-LのLは「Life」のLです。ラスキンが大切にした「人生こそが財産である」という言葉から、「人生(Life)」を事務所名に掲げました。ラスキンのファンなので、彼の回りをいろいろ調べ、『コミュニティデザインの源流 イギリス篇』(太田出版)という本を書きました。ラスキン、ウィリアム・モリス、オクタヴィア・ヒル、アーノルド・トインビー、エベネザー・ハワード、ロバート・オウエン、トマス・カーライルからどんな影響を受けたのかをまとめた本です。ご興味がある方はご一読ください。 以上で僕の話は終わりにします。どうもありがとうございました。
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