Aプロジェクトシンポジウム
「時間がよびさます建築」イベントレポートー【2】
「時間がよびさます建築」イベントレポートー【2】
[西澤徹夫レクチャー]
イントロダクション
八戸ポータルミュージアム はっち
最初に八戸の方の美術館についての説明をしたいんですけども、今僕と浅子さんと森さんとこの3人でやっています。チームを組んでやるということって、最近になってアーティストでもcollectiveといって集団思考でやる形態があるんですよ。僕の場合は意図的に自分の設計の中に外部を持ち込むというか、わざと衝突しそうな人を呼び込んでやっています。
八戸っていうのはどういう街かを説明します。今実施設計中なのでまだ竣工した写真はないんですけど、ミュージアムポータルはっちっていうのが、メディアテークのミニ版みたいな感じなんですね。それでここに八戸市内のあらゆる観光情報、交通情報、それから地域の文化資源の案内みたいなものが全部ここにデパートみたいに集まっていて、観光客がまずここに来れば、市内に何があって、どこに行けばいいのかってのが分かるという場所です。これは市民の人が作ったもので、それを展示するコーナーがあったりして、街の雑多なものを雑多なまま、未整理のまま、ここで展示したり紹介したりしているっていうポータルですね。こういうお土産コーナーがあったり、イベントスペースがあったりします。
一方で八戸ブックセンターっていうのが、八戸市が作った本屋さんで全国でも珍しくて、普通って市が公共でやるのが図書館なんですけど、これは本屋さんなんですよね。これは市が本屋さんをやると民業を圧迫するかって思うんですけど、実は本屋さんって同じ売れ筋の本が決まっていて、どこの店も在庫が売れるって分かってるものしか売らないんですよ。そのことを非常に危惧した市長がこの本屋を考えました。ここでは市内の一般の本屋では滅多に手に入らないような思想とか美術とか演劇とかが置いてます。こういうジャンルの本を置いていてそういう需要は実はすごいあって、その本が売れてるよっていうこと他の本屋に知らせるような役割を担ってうまく回っているんです。
一方で、館山朝市って言って全国でも有数の毎週日曜日に3万人出てくる朝市があって、ここは食品だけでなく木工家具までありとあらゆるものが売っていて、ここで日曜の朝買い物してその日、その一週間過ごしていくみたいなそういう文化があって、また一方では、種差海岸っていう綺麗な海岸があってリアス式海岸のその先の方にあります。ここは東山魁夷が惚れ込んで『道』っていうすごく有名な絵を書いたりしてるような場所があったりします。あとデコトラの発祥地っていうことやB 1グルメの発祥地でもあります。また無形文化祭の三社大祭っていうお祭りで山車があります。先ほどの平田さんのと同じように、街に行くとこういう山車には独特の造形感覚や色彩感覚ってのがあって、こういうのはデコトラを作るということと関連しているんじゃないかということと思ったりしいます。あるいは青森っていうのは、棟方志功がいたので、版画教育が非常に盛んなんですね。それでこれは小中学校で教えるということをしていたりします。
何を言おうとしてるかというと、八戸市は漁業の町なんですけども、そこに美術館を作るにあたって、普通これまでは地域のスーパースターとなるような作家がいてその人の作品を所蔵するとか、目玉になる作品を持って行ったりして収納するという形式があったんですけど、八戸市にはそういうのがない。ないんですけども、市民文化が本当に面白いんですよ。しかもB級なところがすごい面白いというのがあって、そういうものが実は深層のところで深く繋がってるんじゃないかということを、教育という切り口をメインに据えた美術館ができないか、ということで提案しました。今青森には結構文化施設があって、全部どれもがなんとなくB級なんだけど市民の文化に深く根ざしていて、青森のアートというのはそれなしではほとんど語れないところがあると思っていて、それをつなげていくものとして、そこから学び、そこから新しいものをつくり、またそこに根ざしていくっていうためのラーニングセンサーという位置づけが新しい美術館にとって良いんじゃないかっていう提案です。これはコンペの要項にもあったことなんですけども、まず種をまいて、実らせて、成長させて、収穫して、また新たな種をまく。それは美術館っていう展示をするってことと、アートセンターのように若いアーティストが周りの人を巻き込んで作品を作ったりするっていうプロセスを経て、それを美術館に収蔵してもう1回それを展示するということの繰り返しをやっていこう、といことがしたいんですね。なので、今の美術館っていうのは、こういう作品を持っているので見に来てください、ていう美術館ではもうないんですね。
そのために必要な空間として二種類の空間を考えました。一つはジャイアントルームと、もう一つは専門性の高い個室群です。こういう美術館ではあるために、ラーニングセンターとに名付けた場所では、教える人と学ぶ人っていうのが、例えばデコトラの作り方を教える人は一方で種差海岸について学ぶ人でもあるというような関係が双方にあって、その人たちが同じ場を共有できるのに必要なジャイアントルームというのがこれです。これは非常に大きい空間であって、一方で物を作ったり 、レクチャーをしたり、展示をしたり、というある種の機能に特化した空間も同時に必要で、その2種類があります。
一つは先ほどのジャイアントルームで、これは18mx45mで高さが16mの非常に大きい空間を、エントランス兼ロビー兼イベントスペース兼みたいな場所です。
もう一つは市民ギャラリーだったり、ブラックキューブだったりがあります。ブラックキューブっていうのは、映像に特化した部屋で、最近は展示作品の前に作品の紹介の映像を流すということがあったり、映像表現をするっていうことがだったりが非常に増えてきているので、そういうことに特化した部屋も用意しようと、このような特別な空間を作っています。それらの組み合わせによって教育普及的な機能だったり美術館の機能だったり アートセンター機能だったり、随時組み換えられていくというのが僕たちの提案です。
これが屋根を取った時の1階部分の配置でこの写真の左上が北になります。右下が南で、南側に小さい個室があって、北西側にジャイアントルームがあるという配置です。
これがジャイアントルームの室内の風景で、これがスタジオからジャイアントルームを覗いた風景です。
1階には市民の人が使える全部屋があって、2階には基本的に収蔵庫の部屋で、3階以上はシンプルになっています。これは通常の打ち合わせと同じように使う側の人とかと打ち合わせをしたりするんですが、どこに何があるといいのか、これが欲しいとか言う打ち合わせもあるんですけど、ここでどういう展覧会をしてみたいか、ということを同時に話し合いながら、その予算ではじゃあこう最善してみようとか、ワークショップ形式みたいにして、それが結局オープニング展を作る準備がもう始まっているって言うようなやり方をしています。この美術館をやっていて思うんですけど、今美術館に限らず、どんどんプロジェクトベースになっていて、展覧会が入ってそれにぶら下がる形で教育普及のプログラムがあるっていう形式ではなくて、八戸市の場合は、プロジェクトベースで考えた方がいいんじゃないか。例えば、プロジェクト1っていうのがあって、それの中に展覧会があったり、ワークショップがあったり、ドキュメント制作があったりするし、プロジェクト2の場合は、展覧会はもはやなくて、レジデンスプログラムとリサーチと映像制作っていうプログラムだけという形式があるように、美術館の活動が必ずしも展覧会中心に回っていて、それに付随するプログラムがその周りにあるっていう形式ではないんですね。どういうプロジェクトを立てたら、おもしろいのかっていうことから、そのコンテンツを作っていくっていうことにしていかないと、八戸市のような地域資源文化主義みたいなものをうまくまとめることができないというふうに思っています。
これが夜景です。
また、海外のジャイアントルームと同等のサイズで出ているのを調べていて、どういう風に使われているか、どんな空間があるのかっていうのをリサーチしています。テートモダンでは、本体の方が展示空間があるので新しく作っていて、Extensionの方はeducation programを中心にやるスペースを作っちゃってるんですね。そこで地域のどこにどういう人たちが住んでいて綿密に調査して、ここのスタッフが近くのマンションの管理人と仲良くてなるとこまでやっていて、世の中的には今そういう風に進むのかなっていう気がしました。
八戸っていうのはどういう街かを説明します。今実施設計中なのでまだ竣工した写真はないんですけど、ミュージアムポータルはっちっていうのが、メディアテークのミニ版みたいな感じなんですね。それでここに八戸市内のあらゆる観光情報、交通情報、それから地域の文化資源の案内みたいなものが全部ここにデパートみたいに集まっていて、観光客がまずここに来れば、市内に何があって、どこに行けばいいのかってのが分かるという場所です。これは市民の人が作ったもので、それを展示するコーナーがあったりして、街の雑多なものを雑多なまま、未整理のまま、ここで展示したり紹介したりしているっていうポータルですね。こういうお土産コーナーがあったり、イベントスペースがあったりします。
一方で八戸ブックセンターっていうのが、八戸市が作った本屋さんで全国でも珍しくて、普通って市が公共でやるのが図書館なんですけど、これは本屋さんなんですよね。これは市が本屋さんをやると民業を圧迫するかって思うんですけど、実は本屋さんって同じ売れ筋の本が決まっていて、どこの店も在庫が売れるって分かってるものしか売らないんですよ。そのことを非常に危惧した市長がこの本屋を考えました。ここでは市内の一般の本屋では滅多に手に入らないような思想とか美術とか演劇とかが置いてます。こういうジャンルの本を置いていてそういう需要は実はすごいあって、その本が売れてるよっていうこと他の本屋に知らせるような役割を担ってうまく回っているんです。
一つは先ほどのジャイアントルームで、これは18mx45mで高さが16mの非常に大きい空間を、エントランス兼ロビー兼イベントスペース兼みたいな場所です。
もう一つは市民ギャラリーだったり、ブラックキューブだったりがあります。ブラックキューブっていうのは、映像に特化した部屋で、最近は展示作品の前に作品の紹介の映像を流すということがあったり、映像表現をするっていうことがだったりが非常に増えてきているので、そういうことに特化した部屋も用意しようと、このような特別な空間を作っています。それらの組み合わせによって教育普及的な機能だったり美術館の機能だったり アートセンター機能だったり、随時組み換えられていくというのが僕たちの提案です。
これが屋根を取った時の1階部分の配置でこの写真の左上が北になります。右下が南で、南側に小さい個室があって、北西側にジャイアントルームがあるという配置です。
1階には市民の人が使える全部屋があって、2階には基本的に収蔵庫の部屋で、3階以上はシンプルになっています。これは通常の打ち合わせと同じように使う側の人とかと打ち合わせをしたりするんですが、どこに何があるといいのか、これが欲しいとか言う打ち合わせもあるんですけど、ここでどういう展覧会をしてみたいか、ということを同時に話し合いながら、その予算ではじゃあこう最善してみようとか、ワークショップ形式みたいにして、それが結局オープニング展を作る準備がもう始まっているって言うようなやり方をしています。この美術館をやっていて思うんですけど、今美術館に限らず、どんどんプロジェクトベースになっていて、展覧会が入ってそれにぶら下がる形で教育普及のプログラムがあるっていう形式ではなくて、八戸市の場合は、プロジェクトベースで考えた方がいいんじゃないか。例えば、プロジェクト1っていうのがあって、それの中に展覧会があったり、ワークショップがあったり、ドキュメント制作があったりするし、プロジェクト2の場合は、展覧会はもはやなくて、レジデンスプログラムとリサーチと映像制作っていうプログラムだけという形式があるように、美術館の活動が必ずしも展覧会中心に回っていて、それに付随するプログラムがその周りにあるっていう形式ではないんですね。どういうプロジェクトを立てたら、おもしろいのかっていうことから、そのコンテンツを作っていくっていうことにしていかないと、八戸市のような地域資源文化主義みたいなものをうまくまとめることができないというふうに思っています。
これが夜景です。
また、海外のジャイアントルームと同等のサイズで出ているのを調べていて、どういう風に使われているか、どんな空間があるのかっていうのをリサーチしています。テートモダンでは、本体の方が展示空間があるので新しく作っていて、Extensionの方はeducation programを中心にやるスペースを作っちゃってるんですね。そこで地域のどこにどういう人たちが住んでいて綿密に調査して、ここのスタッフが近くのマンションの管理人と仲良くてなるとこまでやっていて、世の中的には今そういう風に進むのかなっていう気がしました。
京都市美術館改修計画
もう一つが京都市美術館改修計画です。まず京都市美術館は昭和8年に大禮記念として昭和天皇の即位を記念して作られたものなので80年以上経ってるんですね。
この美術館が当時の清水組(今の清水建設)が作ったものなんですけどもこういう空間なんですね。そしてこういうエントランスがあります。80年経ってる間に色々細々と回収されて、マスタープランも何も回収されて、あっちこっちいろんな現代的な設備がついたりしています。
これは入場者数ベスト10で、1位が65年のツタンカーメン展とか100万人、10位でルーブル展が42万人。こういう来場者数ががると、既存の動線計画とかがもう従来の関係では全く成り立っていないという大きな問題があります。
また、この美術館は戦後に接収されてた時期があって、アメリカ軍がここにいたので靴磨きサービスの看板が残ってたりするんですね。これは取っちゃうんですけども、こういう扉もちゃんと保管はしておくんですけど、割と人目に触れないところに歴史があって面白いです。
全体としては、西側から地下を一回通ってもう1回上がることになるんですけども、大陳列室というところの東側の日本庭園に出てくる。現状では、東側の日本庭園っていうのは地元の人は知ってるんですけども、観光客なんかはその裏まで回っていくっていうことがあんまりないんですね。一番東側に動物園があるんですけども、あんまりそっちの方に人が行ってなかったので、建物の真ん中を貫通させるような動線を作って、地域全体の人の流れを活性化させていきたいなという風にやってます。
これがスロープ広場です。
これがエントランスロビーここはもともと靴預り所だったところが天井高が2500しかないという非常に低いエントランスロビーです。
これがオリジナルの西玄関です。
これは大陳列室でここの中央の階段から上がってくる。
これが模型で、ちょうど元々あったグランドレベルがから掘り下げているところはガラスを入れていて、「ガラスリボン」と呼んでるんですけども、僕たちの新しい2000年代に増築されたものがグランドレベルより下に、それ以前のものは上になるようにしました。コンペの時も、西側広場のところに施設を埋める要項があったんですけども、他のチームは建物の前にエントランスのボックスみたいなものを作ったりした例があったらしいです。この美術館は二軸のシンメトリーで正面性が非常に強いので、建物の前にそういうものを作るのがとても嫌だなと思っていたので、僕たちは滑り込ませるという方法をとっています。
これは東側です。
これは先ほど言った中庭です。
最後に話す有名なエピソードなんですけども、モナリザのポストカードにマルセルデュシャンが落書きしたものです。自分の展覧会に際してモナリザのポストカードに髭を書いて『髭を生やしたモナリザ』っていういうタイトルを付けて送ったんですけども、その後の展覧会で何も落書きしてないモナリザの写真を使って『髭を剃ったモナリザ』っていう風に使ったものなんですね。僕らがオリジナルのダヴィンチの『モナリザ』を見ても『髭を剃ったモナリザ』だという風にしか見えないというマインドセットを変えられてしまう、文脈を変えるっていうのはそういうことだと思います。そこにあるもの、もともとあるものに、ちょっとひと手間加えることとか見方を変えるだけで、全く違う様相になってしまうという。それは何か自分の内側から出てきてくるものを表現するというクリエーションの在り方というよりも、目の前にあるものをどういう風な見方を変えたら物事ががらっと変わってしまうかということの連続です。リノベーションなんかをやってるとそういうふうに思うし、八戸みたいに新規なんですけどもその地域にあるものどうやって拾い上げたらどういう建物になりうるかっていうことを考えていくと、そうならざるを得ないよねっていう風に、我々として思ってるようなものの作り方がありえるよなと思っています。以上です。
※特記なき写真はすべて西澤徹夫建築事務所により提供
清水
西澤さんありがとうございました。大きく二つの仕事を紹介していただいたんですけども、ひとつはリノベーションで一つは新築で、僕はこれらには共通があるなという風に思いました。特に、多様な問題があってそれを建築化するときに、それを全体としてどう解決するか、このことに対して全体的な部分の調和でしかありえないというような話は、私は平田さんと共通するところがあるのかなという風に感じました。
それではディスカッションに移りたいと思うのですが、その前に私の方から簡単に問題を投げかけというか、私の普段やっていることというのを紹介してお二人にお話伺いたいと思います。
それではディスカッションに移りたいと思うのですが、その前に私の方から簡単に問題を投げかけというか、私の普段やっていることというのを紹介してお二人にお話伺いたいと思います。
最初に説明するするのは、長くなっちゃうので例としてはこの写真だけなんですけども、あるアーティストの作品で「フルーツポンチ」という作品です。このアーティストは何をしているかって言うと、フルーツポンチの中身を並び替えるということだけをやってます。それでこの人はこれを一切を加工していないんですよ。減らしたり他のフルーツを足したりという操作はしてなくて、並び替えるということだけをやっています。でも器に収まったフルーツポンチのときには気づかなかった要素がこの瞬間に浮かび上がっているということがあるんですよね。どれだけりんごがあったのかとか、バナナがこれだけの数あったのかとか、これだけの種類がフルーツがあったのかっていうことなど新しい要素がそこに現れてくるっていうことに非常に関心を持って行っています。