賑やかな交差点の角に、ミニチュアのビルを置いたようなかわいらしい建物です。ひとフロア4坪にも満たない小さな空間ですが、柱を細く分散してガラス枠を兼ね、隣地とのあいだを抜けるような階段を設けるなど、考え抜かれたシンプルな構成で、建築的な制約を感じさせない開放感を実現させています。建物に使われている材料は、電柱や信号機など、交差点にすでにある素材に揃えられています。整備が予定されている前面歩道の材料を調査し、全く同じ物をあらかじめ敷地内の地面に敷いておくなど、風景との連続性が徹底されています。
この建物は、いわゆる「雑居ビル」です。あまり響きのいい言葉ではないけれど、現実を上手に言い当てた言葉でもあると思います。そこで、この「雑」の部分に、ビルに入るテナントだけでなく、交差点全体を含めて考えてみようと思いました。信号待ちをしたり、立ち話をしたり、座ってバスを待ったり、そういう普通の日常がつくる歩道の風景の中に、電柱や看板や信号や誰かの置いたベンチと同じような物として、建物も置かれているように感じられたらいいなと思いました。